慢性前立腺炎(慢性骨盤痛症候群)
検査では異常がないのに、なぜ症状が続くのでしょうか
- 「股の奥が重い、痛い」
- 「尿道に違和感がある」
- 「睾丸のあたりが痛む」
- 「排尿後もすっきりしない」
このような症状が続いて泌尿器科を受診される男性は少なくありません。尿検査や超音波検査などを行っても、症状の原因となるような明らかな異常が見つからず、「慢性前立腺炎」と診断されることがあります。
現在では、このような状態の多くは慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS:Chronic Prostatitis/Chronic Pelvic Pain Syndrome)として考えられています。
どのような症状がありますか?
症状は患者さんによってかなり異なります。よくみられる症状には、
- 会陰部(陰嚢と肛門の間)の痛みや不快感
- 下腹部や鼠径部の痛み
- 陰茎・尿道の痛みや違和感
- 陰嚢・睾丸周辺の痛み
- 排尿時や排尿後の違和感
- 頻尿、残尿感
- 射精時または射精後の痛み
症状がいつも同じ強さではなく、良くなったり悪くなったりすることも特徴の一つです。
「前立腺炎」という名前ですが、細菌感染だけが原因ではありません
急性細菌性前立腺炎は、細菌感染によって起こり、高熱、排尿痛、排尿困難などを伴うことがあります。
一方、慢性前立腺炎では、尿検査などを行っても細菌が確認されない患者さんが少なくありません。現在では、「前立腺そのものの炎症」だけですべての症状を説明するのは難しいと考えられています。
前立腺やその周囲の組織だけでなく、骨盤底筋の緊張、神経の過敏性、長時間の座位など、さまざまな要因が重なって症状が続いている可能性があります。そのため「細菌性か、非細菌性か」だけで単純に分けて考えるのではなく、その患者さんで何が症状を悪化させているのかを考えることが大切です。
長時間座っていることが症状に関係することがあります
実際に診療していると、慢性前立腺炎の患者さんには、長時間座って仕事をしている方が多くみられます。デスクワーク、長時間の運転などで座った状態が続くと、会陰部や骨盤周囲に負担がかかります。また、骨盤底の筋肉が緊張した状態が続くことも、痛みや違和感に関係すると考えられています。
当院では、骨盤内の臓器の図をお見せしながら、前立腺、膀胱、直腸、骨盤底などの位置関係を説明しています。
「90分以上続けて座らない」
90分程度座ったら一度立ち上がり、歩いたり身体を動かしたりして、できれば10~15分程度、座位を中断するようにしてください。薬を飲むことだけが治療ではありません。このように、症状を悪化させている可能性のある生活習慣を見直すことも大切です。
どのような検査をしますか?
まず尿検査などを行い、尿路感染症などがないかを確認します。症状や年齢、経過などに応じて、必要な検査を追加します。
当院では必要に応じて超音波(エコー)検査を行い、膀胱、前立腺、腎臓などを確認しています。慢性前立腺炎では、痛みや違和感があるにもかかわらず、超音波検査などでは症状を説明できるような大きな異常が見つからないことも珍しくありません。
しかし、「異常が見つからない」ことにも大切な意味があります。患者さんの中には、「がんではないだろうか」「何か重大な病気が隠れているのではないか」と心配されている方が少なくありません。
当院では、必要に応じて患者さんにも超音波画像を一緒に見ていただき、症状のある場所の周辺に明らかな異常が認められないことを説明しています。症状はあるけれど、重大な異常が見つからないことを確認する。これも慢性前立腺炎の診療では大切なことだと考えています。
前立腺マッサージは必ず必要ですか?
以前から、前立腺をマッサージして前立腺液を採取し、細菌や白血球などを調べる検査が行われることがあります。しかし、この検査は患者さんにとって身体的・心理的な負担があります。また、すべての患者さんに行わなければ診断や治療ができない検査ではありません。
そのため当院では、慢性前立腺炎の患者さん全員に前立腺マッサージを一律に行うことはしていません。症状、これまでの経過、尿検査、画像検査などを総合して判断しています。
どのように治療しますか?
慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群は原因が一つとは限らないため、すべての患者さんに同じ治療が有効とは限りません。症状や経過に応じて、
- 排尿状態を改善する薬
- 痛みや炎症を抑える薬
- 必要に応じた抗菌薬
- 長時間の座位を避ける
- 適度に身体を動かす
- 骨盤周囲の筋肉の緊張を減らす
- 睡眠や疲労など生活習慣を見直す
などを組み合わせて治療します。
抗菌薬について
慢性前立腺炎では、細菌感染が明確に証明されない場合でも、抗菌薬によって症状が改善する患者さんがいることを臨床では経験します。一方で、すべての慢性前立腺炎が細菌感染によるものではありません。したがって、抗菌薬を漫然と繰り返し使用することは望ましくありません。当院では、症状、発症からの経過、これまでの治療歴、尿検査などを総合して、抗菌薬を使用するかどうかを判断します。
なぜ治るまで時間がかかるのでしょうか?
慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群では、一つの原因を取り除けばすぐに症状が消えるとは限りません。症状が数週間から数か月続くこともありますし、一度良くなってから再び悪化することもあります。
しかし、慢性前立腺炎は、症状が続いていることと、重大な病気が進行していることとは同じではありません。必要な検査で重大な異常がないことを確認したうえで、症状を悪化させている要因を一つずつ減らしていくことが重要です。
「前立腺だけ」を治そうとしないことが大切です
慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群は、その名前から「前立腺にずっと炎症が残っている病気」と考えられがちです。しかし現在では、それだけでは説明できない病気であることが分かってきています。
前立腺、排尿状態、骨盤底筋、神経、長時間の座位、疲労、睡眠などを含めて考えることが大切です。検査で大きな異常が見つからなくても、患者さんが感じている痛みや違和感がなくなるわけではありません。
一方で、重大な異常がないことを確認して過度な心配を減らし、生活の中にある悪化要因を見直しながら、その方に合った治療を続けることで症状が軽くなっていくことは十分期待できます。症状が長く続いている方、良くなったり悪くなったりを繰り返している方は、一度泌尿器科でご相談ください。